●心の中の森を行く●

生きた証を残したい。私が言葉を忘れる前に

病人は布教活動の広告塔ではない

こことば別のブログで私は自分史のような記事を書き続けている。

「そういえばあの子、今ごろ何してるんだろう」

先日、いつもと同じように、懐かしい名前の1つをパソコンに打ち込んで検索した。

 

出てきたのは、とある特集記事。

 

闘病?

急性骨髄性白血病

 

その子の苗字は結構珍しい。しかも年齢が同じ。でも、記事に添えられている写真は全くの別人。いくら40年の時を経ても、ここまで顔が変わるはずがない。

 

嘘だろ、まさか白血病なんて嘘だろ。つか、これは別人に違いないよ。

血液が逆流するような感覚を抑え、必死に記事を追っていった。

 

ある日突然に高熱を出して救急病院へ。症状が収まらない。白血球の値が異常。脊髄を検査。医師から告げられたのは急性骨髄性白血病

抗がん剤治療を受けて退院。

その2か月後に再発。骨髄移植のドナーが見つかったので移植。これで快方に向かうのかと思ったら更に状況は悪化。

移植した骨髄が全身を攻撃し始めた。「いっそ切断してくれ!」と叫びたくなる激痛。激しい嘔吐と下痢。次第にもうろうとしていく意識。遺書を書こうとしたがペンが握れない。意識はさらに低下。数か月分の記憶がない。退院できた頃には25キロ痩せていた。何とか復職したが・・

 

ここまで読んで私はぎゅっと目を閉じた。

名前や年齢だけじゃなく、職種や経歴まで完全一致じゃないか。

もう一度、記事に添えられている顔写真を見る。あの子のかけらを必死に見つけようとしたけど、本当に別人にしか見えない。

 

なんでこんなに浮腫んでしまったんだ。あの端正な顔立ちはどこへ行ったんだ?記事には「力強く笑っている」と書いてあるけど、どう見ても泣き顔にしか見えないぞ。本当に笑ってるのかあんた。心の底から本当に笑ってるのかあんた。

 

勇ましい言葉で飾り立て、病と闘う英雄だと持ち上げる記事はまだまだ続く。

 

うそつけ。祈りが足らないから病気になったんじゃない。気持ちを入れ替えて必死に祈り続けたと書いてあるけど、全然回復してないじゃないか。

 

痩せこけて体力のない身体で隣の市まで自転車をこいで祈りを捧げに行く。倒れそうになる自分に生きている手ごたえを感じる。止まらない汗も生きている証。

 

おい。こんなことをしてたら死ぬぞ。退院してすぐじゃないか。誰も止めないのか。あんた、家族はどうなってるんだ。・・へ?家族総出で祈りを強化?マジかよ?

 

退院から1年後、脊髄はさらに全身を攻撃。手足がほぼ動かせない状態のようだ。全身の痛みも続いている。息苦しく、口の中はびっしりと口内炎。下痢も続く。

こういうのをGVHDって言うんだよ。手術から時間が経っている場合、症状をコントロールするのは難しい。案の定、非常に強い薬を使っているようだ。顔が別人に見えたのは、薬の副作用で浮腫みまくってしまっていたからだと分かった。

 

最後まで読み終わり、いろんな怒りが襲ってきた。

 

まるで北朝鮮のテレビニュースのようだ。毛沢東語録の赤い手帳を振り回して暴れている紅衛兵のようだ。

 

将軍様」や「毛沢東」の教えや教義を盲信して無茶をする病人。それを「勇ましく素晴らしい偉業」などと煽り立て、記事は病人を英雄に変えていく。

 

出来ない無理をして自分を痛めつけることが信仰だと思っているのだろうか。止めに入るべき身近な人までが一緒になって、止めるどころか煽り立て、一緒に崩壊への闇に落ちていく。私にはそんな風にしか思えなかった。

 

あんなに理性的で賢い子だったのに。信仰という名のもとに、無茶な精神論で自分の身体を痛めつけて何が嬉しいんだ。どうしてだ。

 

命の大切さ、人生の素晴らしさを教えてくれたのは、まぎれもなく君だったというのに。

 

生い立ちに恵まれず、暴力やクスリが身近にある環境の中で幼少期を送った私にとって、家庭に恵まれた君はとても眩しかった。君のお陰で、世の中は意外といいものなのかもしれないと知った。健康で、頭の回転が速く、ずば抜けて運動神経が良く、そしてとても端正な顔立ちだった。そんな君と過ごした春は、今でも私の心の中であたたかな光を放っているというのに。

 

なんでだよ。

どうしてそんなに体をイジメて快感に浸ってるんだよ?両親も健在で、今でも経済的にとても裕福で、当然奥さんもついてるってのに。よってたかって何してるのよ。

 

病人というのは、教祖や教義の偉大さを讃えるための兵隊じゃない。

 

病気になったのは信仰が足りないから?お布施が足りないから?

 

その子は記事の中で「俺は教祖様の弟子だ」と言い続けていた。

 

あのな。

本当に弟子を大切に思う師匠なら、25キロも痩せた人間が自転車で遠くから道場に通ってきたら、「アホ!」と一喝してタクシーに乗せて帰宅させるぞ。

月謝が足らないから上達しない、昇段しない、なんていう道場があったら速攻辞めるだろ?

 

あの子はイってしまった。トランス状態だ。私が知っていたあの子は、もうこの世にはいなかった。