●心の中の森を行く●

生きた証を残したい。私が言葉を忘れる前に

老齢年金額の低さを嘆く沖縄の老人を叩く前に

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 増える老人、増える現役世代の負担。

若い世代が老人に文句を言いたくなる気持ちは、私にも理解できる。私も夫も、一応現役世代側の人間だ。

 

さっき私のツイッタータイムライン上をこんなニュースが流れていった。老齢年金を受給している沖縄の高齢者が登場する。「年金支給額が少なすぎて食べていけない、病院にも行けない」といった趣旨のニュースだ。

それに対して侮蔑的なツイートをし、それに賛同してガンガン叩いてるフォロワー達を見て思ったことをここに転載しようと思う。

 

 

headlines.yahoo.co.jp

 男性は数日前に誕生日を迎え78歳になったばかり。妻は1学年上で、もうすぐ79歳になる。耳が遠くなり、目もあまり見えないという妻。話がかみ合わないことも増えた。「認知症だろう」という。

 元々、水道関係の仕事をしていたという男性。いまは妻の面倒を見なければならないため仕事はしていない。頼みの綱は2カ月に一度もらえる2人分の年金計約22万円。つまり1カ月に使える金額は約11万円だ。

 

家には寝に帰るだけだという男性夫婦。1日3食全てをコンビニや牛丼チェーン店で済ますといい、車内のドアポケットにはコンビニでもらえるスプーンが大量にあった。食費に加えてガソリン代は毎月2万円以上。光熱費など最低限のものを支払うとあっという間に年金はなくなる。

 

 

これだけなら、沖縄県外でもよくあることだ。

中には確かに、若い時に貯金もせず、年金保険料も納めず、老後のことを考えてなかった人もいるかもしれない。

 

公的扶助に頼って生きている人を叩くときによく出てくる有名な画像がこれだ。

働いている若者より高額な生活保護費をもらっている。半額とはいえ、いい肉を沢山買いこんでいる。そして、「保護費が少なくて厳しい、これ以上減らすのか?」と嘆いている。

これまで散々この人はネット上で叩かれてきた。私も、この女性の金銭感覚はいかがなものかと思う。

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しかし、次のニュースを読んでほしい。老齢年金が少なくて生活が厳しいと訴える、さっきとは別の沖縄の老人の声だ。

記事内に書かれてある、沖縄が置かれてきた社会背景についての説明も、あわせて読んでみてほしい。

headlines.yahoo.co.jp

日本復帰後、県内の飲食店で勤務した。低賃金と事業所側の厚生年金未加入が負担となり、国民年金の納付は後回しになった。

 約10年前に夫が他界。納付条件を満たさず遺族年金はない。4人の子どもは自宅近くに暮らすが、「迷惑を掛けたくない」と頼れないという。

沖縄の年金制度は国民年金が本土に9年遅れて70年4月に始まったが、被保険者期間が短く年金額が県外より低いなど給付水準に格差が生まれた。政府は老齢年金の受給資格期間の短縮や復帰前の期間を保険料免除とする特別措置を講じたが、追納負担が足かせとなった。

 

 そして、これらのニュースを引用したツイートのいくつかを読んでみてほしい。最初の方はこれらのニュースを引用した人だ。当然記事内容を読んで引用したはずだ。

私は悲しい気持ちになった。

 

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私は沖縄の人間ではない。けれど、2つ目の記事が解説している通り、沖縄は本土とは異なる戦後を歩んできたんだよ。

アイコンとアカウント名を消しているとはいえ、ネット上であっても他人様にネガティブなことを書くのは本意ではない。ただ、この方はいつも老齢年金を貰っている老人を叩き、若者のフォロワーを集め、自分のブログに誘導してアフィリエイト活動をなさっている。

そのジャンルの知識が豊富な方だ。私も、彼女のツイートを拝見して勉強させてもらっている人間のひとりだ。

ただ、老人は早く死ね、に近いことを書いて煽る姿勢だけはちょっとな・・といつも思ってた。

 

特に沖縄には、本土にない特殊な事情があるんだよ。

 

日本で唯一、アメリカ人が上陸して残虐な戦闘行為を行った島。県民の4人に1人が戦場で散った島。1972年まで日本に戻ってこれなかった島。それが沖縄。

復興のスタート地点は、本土よりもぐっと低いところにあったはずだ。焼き尽くされ、破壊つくされ、何にもないんだもの。

頼れる親や親戚も沢山死んでしまった。後に残った人達は、社会システムも大切な人も財産もずたずたにされてなお、生きていくために必死だったはずだ。

 

その一方で、沖縄が本土復帰するまでの27年間に、本土はぐんぐん国力をつけた。

やがて高度成長期がやってくる。製造業やサービス業がどんどん伸びた。安定してお金を生み出す産業だ。農林漁業と違って、自然相手の不安定な職業ではない。

そして、各種社会保障制度が整った国づくりが行われた。年金制度もそのひとつだ。

 

沖縄の人が日本の年金制度に加わることになった時期は遅い。しかも、社会保険に入らない企業も多かった。一生懸命に働いても給料は低い。これは今でもそうだ。

安い給料の中から国民年金を払うのは大変だったろう。給与水準は地域差が大きいけれど、国民年金保険料は全国一律なのだから。

払いたくても払えない人の割合は、本土の比ではないはずだ。

沖縄が本土復帰した時、本土はもう「戦後」じゃなかった。沖縄は高度成長を経験することなく日本に戻ってきた。だから製造業の比率が低い。それでなくても地理的に本土と遠いから、製造したものを県外に出してお金を儲けることが難しい事情もある。

 

いつもと違って賛同の「いいね」やリツイが多い。

 

記事を最後まで読んだのなら、人寄せの為に安易に叩いていい老人じゃない(かもしれない)ってことが分からんか?

そこまでして賛同者を増やしたいのか?

歴史を知ろうぜ。沖縄は日本だ。特殊な道を歩んできた日本だ。

 

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返事は来ないだろうな、と思いつつも

「老人叩きをすれば現役世代が喜び、自分への賛同者が増えると思ってはいけません。沖縄の老人が貧困にあえいでいるのは、単に個人の努力や堅実さが足らなかったからばかりじゃないんです。そういう社会制度の中で彼らは生きてきたんです。歴史を知って下さい」

そう言いたくて、そんなリプを打ってみた。

 

やっぱり返事はこなかった。

 

でもね。いくらアフィリエイトでお金を儲けたいからといって、無分別に老人を叩くのはよろしくないと、私はどうしても思うんだよ。

特に沖縄の人を無分別に叩いちゃいけないと思うんだよ。社会制度の犠牲になっている側面もあるんだから。

 

そしてなにより。

その記事に出てきた年齢のご老人たちはね。

地上戦の記憶が残っている世代の方たちなんだよ。モノのように殺されていく人を、幼い瞳で否応なしに見せつけられ、食べ物もない中で何とか生き延びた人達。沖縄の戦後復興を支えた人達。

 

ここには貼らないけど、こんなリプを打ってる人もいた。

 

「若い時から自炊してないからダメなんでしょ」

 

はっきり書く。戦争で4人に1人も死んでしまうほど徹底的に破壊しつくされた島で、毎日食堂でメシ食えたと思うか?食材も手に入りづらい中、工夫して自炊して必死に命をつないできたはずだ。本土以上に大変な戦後復興だったんだぞ。分かってんのかオマエ。

 

歴史は勉強した方がいい。要らぬ誤解から来る摩擦を生む。

 

沖縄は、海がきれいでのんびりした「なんくるないさ~」なだけの呑気な島じゃないの。もちろん個人差はあるだろうよ。酒かっくらって仕事もせず、親戚におんぶにだっこな、どーしよーもないヤツもいると思うよ。

でも、あの記事に出てきた人達がそうだと決めつけちゃいかんでしょ。

 

沖縄のご老人はね。

なんくるならんことを一杯乗り越えてきた人達なんだよ。

 

アイキャッチ画像に使ったのは、私の書棚から引っ張り出してきた沖縄関連本のごく一部。私も本の中でしか知らないようなもんだから、偉そうに言えないんだけどね。

 

でもな。

偉そうに言えないからこそ。

つまり、よく知らないからこそ。

人を嗤って叩いちゃいけないと思う。

 

画面の向こうには人がいるんだ。忘れるな。